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ロングボードのノーズライディングはなぜ沈まないのか?【Part2】ボードの下では何が起きている?圧力・水流・境界層を徹底解説

Part2|ボードの下では何が起きている?

この記事でわかること

  • ボード下面を流れる水の正体
  • 圧力分布(Pressure Distribution)
  • 境界層(Boundary Layer)とは何か
  • 流れの剥離(Flow Separation)が起きると何が起こるのか
  • なぜスピードが落ちるとノーズライドが終わるのか

Part1のおさらい

前回は、

ノーズライディングは浮力だけでは説明できない

という話をしました。

サーフボードは十分な速度になるとプレーニング状態となり、浮力だけでなく水の流れによって発生する流体力学的な揚力でも支えられます。

では、

その水は実際にボードの下でどのように流れているのでしょうか?

ここからは、目では見えない「水の流れ」をイメージしながら読み進めてください。


水は「板を押している」のではなく「流れている」

昔から、

「テールに水が乗って押さえている」

という説明があります。

もちろん、それも一部では正しい現象です。

しかし実際には、

ボードの下では大量の水が止まることなく高速で流れ続けています。

つまり、

板の下は、

一枚の水の膜の上を滑っているような状態です。

その水の流れによって、

ボード下面には場所ごとに異なる圧力が生まれます。

これがノーズライディングを支える重要な要素です。


圧力分布とは?

ボードの下面は、

どこも同じ力で押されているわけではありません。

例えば、

ノーズ
↓

□□□□□□□□□□□□□□

高圧 中圧 低圧 高圧

□□□□□□□□□□□□□□

↑
テール

実際には、

場所ごとに水圧が変化しています。

この「どこにどれだけ圧力が掛かるか」を示したものが

圧力分布(Pressure Distribution)

です。

CFD解析では、この圧力を色分けして表示できます。

青は低圧

赤は高圧

というように可視化すると、

ボードのどこが水を受け、

どこで流れが速くなっているかが一目で分かります。


水はボードに沿って曲がりながら流れる

ここで重要なのは、

水は真っ直ぐ流れているわけではないということです。

ボードには、

  • ノーズロッカー
  • テールロッカー
  • コンケーブ
  • レール

があります。

そのため、

水流はボード下面に沿って曲がりながら流れます。

このとき、

流れの向きが変わることで運動量も変化します。

ニュートンの運動量保存則によれば、

流体の向きを変えるには力が必要です。

そして、

その反作用としてボードには上向きの力が発生します。

これが、

流体力学的揚力の重要な考え方の一つです。


ベルヌーイの定理だけでは説明できない

「流体力学」と聞くと、

ベルヌーイの定理を思い浮かべる人も多いでしょう。

確かに、

流速が速い場所では圧力が低くなる

という関係は存在します。

しかし、

飛行機もサーフボードも、

ベルヌーイだけでは説明できません。

実際には、

  • 水の向きが変わる
  • 水が押し下げられる
  • 圧力分布が変化する
  • 粘性の影響を受ける

など、

複数の現象が同時に起きています。

近年の流体力学では、

ベルヌーイだけでなく、

ナビエ・ストークス方程式を用いて解析するのが一般的です。

CFDも、この方程式をコンピューターで数値的に解いています。


境界層とは?

ここから少し専門的になります。

ボード表面には、

境界層(Boundary Layer)

という非常に薄い水の層があります。

面白いことに、

水はボード表面では完全には滑っていません。

表面に接した水は、

粘性によってほぼ停止しています。

そこから離れるにつれて、

少しずつ流速が速くなります。

ボード

━━━━━━━━━━

0 m/s

1 m/s

2 m/s

4 m/s

6 m/s

8 m/s

水流

この速度変化が起きる薄い領域が、

境界層です。


境界層があるから抵抗が生まれる

境界層には良い面と悪い面があります。

良い面は、

流れを安定させること。

悪い面は、

摩擦抵抗を生むことです。

サーフボードは、

境界層をできるだけ乱さないように設計されています。

そのため、

ボード表面の仕上げやワックスの状態も、

わずかながら水の流れに影響します。


流れの剥離(Flow Separation)

さらに重要なのが、

流れの剥離

です。

本来、

水はボード下面に沿って流れます。

しかし、

ロッカーが急すぎたり、

迎角が大きくなりすぎたりすると、

水がボードから離れてしまいます。

正常

━━━━━━→→→→

異常

━━━━━━

   ↓

 渦発生

これが流れの剥離です。

剥離すると、

  • 抗力が増える
  • 揚力が減る
  • スピードが落ちる

という悪循環になります。


ノーズライドが突然終わる理由

ノーズライディング中、

突然ノーズが沈むことがあります。

その原因は、

単純に「前へ行き過ぎた」

だけではありません。

実際には、

  • スピード低下
  • 揚力低下
  • 圧力中心の移動
  • 流れの剥離

などが連鎖的に起きています。

つまり、

ノーズライディングは

揚力が維持されている間だけ成立する

現象なのです。


CFD解析で分かってきたこと

近年のCFD研究では、

サーフボードの姿勢が数度変わるだけで、

揚力や抗力、

圧力中心の位置が大きく変化することが確認されています。

つまり、

わずかな荷重移動や姿勢の変化でも、

ボード下面の流れは大きく変わります。

これは、

熟練したロングボーダーが、

ほんの数センチ重心を動かすだけでノーズライドを維持できる理由とも一致しています。

経験的に行っている体重移動は、

実は非常に理にかなった操作なのです。


Part2まとめ

ノーズライディング中のボード下面では、

私たちが想像している以上に複雑な水の流れが起きています。

  • 水は止まっているのではなく流れている
  • 圧力分布によってボード全体が支えられる
  • 境界層が流れを安定させる
  • 流れが剥離すると揚力が失われる
  • スピードが揚力を生み出している

つまり、

ノーズライディングとは、

単純に「浮いている」状態ではなく、

水流・圧力・速度が絶妙なバランスで保たれている状態なのです。


次回(Part3)

ここまでで「水の流れ」は理解できました。

では、

その水をコントロールしているのは何でしょうか?

次回は、

  • ノーズコンケーブ
  • テールロッカー
  • 50/50レール
  • スクエアテール
  • フィン
  • テール幅

など、

シェイプが流体力学にどう影響しているのかを、海外シェイパーの知見と工学的な考え方を交えながら詳しく解説します。


参考文献

  • D'Ambrosio, D. et al. Hydrodynamic Characterization of Planing Surfboards Using CFD (MDPI Proceedings, 2020)
  • D'Ambrosio, D. et al. CFD for Surfboards: Comparison between Three Different Designs in Static and Maneuvering Conditions (MDPI Proceedings, 2018)
  • McCauley, J.L. Hydrodynamic Lift on Boats (2018)
  • White, F.M. Fluid Mechanics
  • Anderson, J.D. Fundamentals of Aerodynamics
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